給与は適当に決められていて、会社も社員も確信感はないが、多くの場合そのままになっている

色んな人とお金の話、職業探しの話、待遇の話などをしていると、「給与」ってものに対して、人によって向き合い方、というか理解がかなり違うことを感じる。

そこで、僕なりの「給与・給料」に対する捉え方をつらつらと書いてみる。参考になれば幸いである。

給与の内訳

「給与 どのようにして決まる」などの検索ワード(凡庸…)でググると、色んなページが出てくる。

社員の給与の決め方とは?適正な給与体系を設計するうえでのポイント

 

「社員のモチベーションアップ」「企業財務の安定化」を実現するために、給与体系をしっかり決める必要がある。

一般的な企業の給与体系の構成は、「基本給」「職務給」「能力給」「賞与」「インセンティブ」「諸手当」

みたいな感じだ。簡単にコメントすると、こんな感じ。

  • 基本給:だいたい年功序列。言葉を選ばずに言うと「底辺の社員にいくら払うか」で考えればいいと思う。
  • 職務給:重要な役職だと金額が大きい。責任の重さだと思ってる。
  • 能力給:専門職かどうか、学歴、資格の有無などから判断する。
  • 賞与:ボーナス。企業全体の業績に依存する。
  • インセンティブ:個人の成果報酬。特にモチベーションに依存しそう。
  • 諸手当:その他。時間外手当とか、住宅手当とか、通勤手当とか。

この中で、基本給は多少の差はあれど、人によってほぼ変わらない。

賞与も人によってほぼ変わらない。

諸手当はその人の仕事ぶりとは関係がない。

残った職務給、能力給、インセンティブが、人ごとに変わる部分、つまり社員の評価が反映される部分である。

給与とは、社員のアウトプットに対する対価である

端的に言えば、給与とは、社員のアウトプットに対する対価 である。

ある社員が1年間で800万円の売上に値する成果を出してくれるのであれば、その社員に500万円の給与を支払っても、会社側は実質300万円の収支になる。

ある社員が1年間で3,000万円の売上に値する成果を出してくれるのであれば、その社員に1,500万円の給与を支払っても、会社側は実質1,500万円の収支になる。

もちろんそんな単純計算なわけないのだが、雑に言えばそうだ。

ただ、ここには2つ罠がある。

  1. その社員がいくらの売上を出すのか、推測できない
  2. その社員がいくらの売上を出したのか、実績を記録できない

つまり、その社員に対して現在支払っている給与が妥当な金額かどうかを、会社も本人もわかっていないのだ。ここがこの記事の要点である。

「能力」って数値化できるか?いや、できない。

どの会社でも、定性的に言えば「能力に応じた給与を与えている」ということになっているのだが、結果として支払っているのは定量的なお金だ。

「社員の中でのスキルの偏差値」みたいなものが数値化できれば、それに係数をかけて給与とすればいいのだが、そんなものが数値化できるわけがない。

同じ職種だとしてもスキルの種類はあまりにも多様化している。だから、面接で学歴を訊いて、保持している資格を訊いて、どんなことができるかを訊く。論理的思考力があるのか、課題解決力があるのか、主体性があるのか、コミュニケーション能力があるのか、協調性があるのか訊く。でも全て数値化できない。いや、資格保持は0か1だが、それが本人の能力にどう反映されてるかはわからないのだ。だから、 能力給はとどのつまり適当に決めるしかない

また、業種ごとにどの程度差をつけるのかも答えがない。人事、総務、法務、経理、採用、情報システム、広報、マーケティング、営業、開発、マネージャーなど、一般的によく使われる基準はあるかもしれないが、それも正解かどうかはわからない。会社ごとに調整も必要だろう。これも答えがない。職務給もとどのつまり適当に決めるしかない

インセンティブはまだ評価しやすいように思えるが、例えば「1年間の受注を50件取ってきた営業担当者」に対して支給すべきインセンティブが5万円が妥当なのか、10万円が妥当なのか、答えなんてないのだ。 インセンティブもとどのつまり適当に決めるしかない

ある意味、給与は全て適当に決められているのだ。こんなことを役員の皆様に言うと「いやいや、ウチはきちんと給与体系に則って給与を決めている」とおっしゃるかもしれないが、その給与体系自体に、根拠があるようでないのだ。

基本給12万円の会社もあれば、基本給20万円の会社もあるだろうし、それが「妥当だ」「妥当じゃない」なんて、誰にも判断できない。

なので、社員は常に「正当な対価をもらっているのだろうか」と感じ、逆に会社側も「正当な対価を渡せているのだろうか」と感じているのが実態である。

「値決め」というものはそもそも難しい

ちょっと余談だが、給与に限らず「値決め」は常に難しい。

例えばスーパーマーケットでトマトが1個120円で置かれているとして、それは「誰が」「どういう基準で」決めているのだろうか?もちろん仕入れ値とか、利益目標とか、過去の傾向とか、物価とかを考慮して総合的に決めているってことなのだが、言ってしまえば「適当に」決めているのだ。じゃあそれが121円ならダメなのかとそれでもいいと思うし、それでも買う人は買うだろう。

マクドナルドのハンバーガーはなぜ100円になったり120円になったり130円になったりするのか。もちろん原価、見込売上数、利益などから計算されているだろうが、140円にしてしまっていいのか、130円のままのほうがいいのかなど、会社としての判断は最終的には「エイヤ」しかないのだ。たぶん。

「この物件条件で家賃9.5万円」が妥当かどうか、本当に確信を持って決められているのか?圧倒的なデータベースがあるからかなり正確ではあると思うが、そもそも「多少高いけど事情があり妥協して契約している人」「安い物件を見つけたと思って喜んで契約している人」などノイズがあるはずで、「契約があった」 イコール「その家賃が妥当だ」にはならない。

このように、「価値に合った価格か」が本質ではありつつ、ある程度利益が出る程度に高く、クレームが来ない程度に安く設定する。あまりにも難しい。

モノやサービスに対する値決めですら目眩がするほど難しいのだから、人間の能力の値決めなんてそもそも確信を持ってできるわけがない

給与交渉をする心理的ハードル

給与の話に戻る。多くの人(僕もそうだけど)が給与交渉をしない理由はなんだろうか?

給与交渉をするにあたっては、心理的ハードルが存在するんだと思う。

具体的に言えば、恐怖や不安。「社内の人間関係が悪化するのではないか」とか「自分の評価が下がるんじゃないか」といった不安あたりだろうか。

社内の人間関係が悪化するのではないか?という不安

退職や転職の話を切り出すのにも、似た不安がつきまとう気はする。要するに、「私とあなたの関係(契約)を変更しましょう」という打診なのだから、気は重いし不安もすると思う。退職や転職の場合は仮に人間関係が悪化しようが、環境自体を移すわけだから、ある意味問題にはならない。

しかし、給与交渉をして人間関係が悪化してしまったら、その後気まずくて働きづらくなる…みたいなことはやはり不安だろう。

ただ実際にはそうではない。

むしろ、多くの人は、「NOと言える人間=主体性のある人間だ」と判断する。対照的に、大多数の人がそうしないからだ。

それに、そもそもだが会社というものは社員を守る義務がある。その上で社員が「享受している対価を正当と思っていない」状態を続けるのは、会社としても避けたいところのはずだ。もちろん会社の財政状況的に人件費を減らしたいとか、話し合った上で交渉が成功しないこともあるとは思うが、基本的には「教えてもらう」だけでも有益な情報のはずだ。

「給与交渉をする」と意気込むんじゃなくて、「現在の給与についてちょっと納得感が低いから相談する」くらいの軽い気持ちで打診してみたらいいのではないかと思う。

自分の評価が下がるんじゃないか?という不安

「この金額でOKね」と合意したものをひっくり返すみたいで、ゴネているような気持ちになり申し訳ないという気持ちもあるかもしれない。

ただ、働き始めてから稼働内容や求められるスキル、貢献度などはわかってくる。給与なんて金額決定時点での「予測」「期待値」でしかないのだから。それを踏まえて改めて自分が享受している給与の数字を見て「妥当か」という評価を社員側がしても全く問題はないのだ。

家賃も同じである。最初は物件情報を見て住んでみたかもしれないが、「住んでみてからわかること」があるはずなのだから、いつでも家賃交渉をする権利は貸借人側にあるのだ。

『何も言ってこないなら納得してもらえているんだろう』と思われている

ここで重要なポイントが1つある。

会社側も「正当な対価を渡せているのだろうか」と、確信感を持てていないのだ。だから、「何も言ってこないなら納得してもらえているんだろう」という思考になる。そりゃそうだ。しかも、会社側はお金を払う立場なのだから、会社側から「もうちょっと払おうか?」なんて言ってくるわけがない。だから社員から給与交渉をする。それを受けて、会社側は「少ないと感じられていたんだな」と理解する。給与の意義として「社員のモチベーションアップ」が含まれている以上、給与交渉の余地は十分にある。

(この記事の主題は給与だが、)ちなみに家賃も全く同じ構造だ。

家主側も「正当な家賃設定で貸しているのだろうか」と、確信感を持てていないのだ。だから、「何も言ってこないなら納得してもらえているんだろう」という思考になる。そりゃそうだ。しかも、家主側はお金を払う立場なのだから、家主側から「もうちょっと安くしようか?」なんて言ってくるわけがない。だから賃借人から給与交渉をする。それを受けて、家主側は「高いと感じられていたんだな」と理解する。部屋を空けている期間は家主には1円も入らないのだから、引越されるリスクを考えるなら、家賃交渉の余地は十分にある。

給与体系が定まっていないなら給与交渉してみるといい

と言いつつ、僕は給与交渉をする予定はない。その理由は2つある。

1つ目は、今の給与には概ね納得できているから。

2つ目は、給与体系が決まっている(という事実が存在する)から。

先ほど述べた通り、「給与体系が決まっている」という事実は、給与交渉をしてきた社員に対して会社側が「ウチはきちんと給与体系に則って給与を決めている」と反論できる材料になる。喩えるなら、「給与体系」という盾がある感じだ。

逆に言えば、盾がないならチャンスだと言いたい。もしあなたが給与体系が定まっていない会社に所属しているなら、社員への給与に対する会社側の確信感が低い確率が高い。少しでも不満があるなら、給与交渉すれば交渉に応じてもらえる公算は高いと思う。

ぜひ。

チャイフ

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