
(サムネイル:『きみに回帰線』より)
こんにちは、チャイフ(@chaif123)です。
速くて中毒性があって複雑で不安定でどこか切ないロックサウンド。
そんな稲葉曇の曲が好きすぎるので、TOP5を紹介したいと思います。TOP5に絞るの苦行すぎました。
Contents
稲葉曇の概要
稲葉曇とはボカロPの名前です。
- 2016年、「秘密音楽」をYouTube、ニコニコ動画に投稿し、ボカロPとしてデビュー。
- wowakaをリスペクトしており、1曲目から7曲目までの曲名をしりとりにするなど、随所にその影響が見られる。
- 7曲目の「うつしあそび」までは自身でMVを作成していたが、「ロストアンブレラ」からはイラストレーターのぬくぬくにぎりめしが、アートワークを担当している。
by wikipedia
上記に加えて「基本的にボーカロイド歌愛ユキを使っている」という点を押さえておけば、稲葉曇の一般教養(?)はバッチリです。
個人的には「歌愛ユキと言えば稲葉曇」だと言いたいです。(想太の『いかないで』、ゆこぴの『強風オールバック』あたりはかなり有名だけど)
「歌愛ユキが歌う」こと自体に重点を置いていて、「歌愛ユキの声に合う曲」というのも作曲の方向性に影響を与えているそうです。また小学生ならではの世界観や歌詞も登場し、明確なポジションを確立しているように思えます。
稲葉曇のPVにはぬくぬくにぎりめしが描くイラストでジト目の女の子が出てくるんですが、アレは一応歌愛ユキだと思ってます。いや、違うのかな。絵のタッチがぬくぬくにぎりめしナイズドされすぎてて確信はないし別にどっちでもいいんですが。
さらにちなみに「wowakaをリスペクトしており、」の話に戻るんですけど、曲名しりとり以外で言うと、『秘密音楽』の頃から一貫してほぼモノクロ調のPVになっています。またPVでの歌詞の付け方にもリスペクトが見えます。そして、曲の構成や音使いにwowakaへのリスペクトが現れていたり、歌詞が「…これもうwowakaさんへのメッセージじゃないのか…?」と思ってしまうところもあります。それは後ほど。
※稲葉曇の音楽性のバックグラウンドや人となりがわかるこちらのインタビュー記事が秀逸でした。
Real Sound | 稲葉曇、「ロストアンブレラ」ブレイクを経た変化 ボーカロイド 歌愛ユキを選んだ理由や音楽的ルーツも明かす
※稲葉曇の音作りは非常に複雑かつ僕自身の音楽知識不足も相まって、楽曲としての考察はかなり難しい…。
以下の記事がかなり的を得ていると思いますのでそちらに譲りまして、僕は単純に好きな曲発表ドラゴンになろうと思います。
note | 好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ 「稲葉曇」編
稲葉曇の楽曲の好きなところ
稲葉曇の楽曲の好きなところはいろいろありますが、サウンドが複雑なこと。
「複雑」というのはネガティブな意味ではなく、「深い」ということです。
普段聴いている音楽とは距離があり、一度聴いただけでは理解できず異質なものに感じられます。
しかし、複雑でありつつも1つの楽曲の形として成立していることに少しずつ理解が追いつき、「なんか良い」と、気がついたらハマっているような。
そういう意味で、「どう見るか」が問われているアートのような音楽だなとも感じています。
ちなみにその「複雑さ」を構成し知恵る音楽的な要素としては先ほど紹介した記事でも詳しく分析されている通り、「ピッチが不安定なシンセ」「不協和音」「半音階のギターリフ」「複雑なコード進行」「独特な譜割り」などが挙げられます。
稲葉曇の複雑なサウンドを聴いていて受ける印象は、「不安」「曖昧」「不完全」「迷い」「葛藤」。
繰り返しますがネガティブな意味ではなく。
人間って日々不安を抱え、正解のない曖昧な世界で、不完全ながらも迷いながら葛藤しながら生きているものじゃないですか。
そういうリアルで、等身大の生き様みたいなものが、歌詞ではなく音楽から伝わってくるんです。これってすごいことだと思いませんか?
好きな曲TOP5
さて、ようやく本題の好きな曲TOP5にまいりましょう。
※個人の解釈が大いに含まれるため、飛躍や拡大解釈によって気分を損ねることがあればご容赦ください。
第5位『期待通り』
稲葉曇の十八番(?)、テンポ早めのロックサウンド。Bメロの終わりのフレーズからサビへのダイナミックな転調が特徴的。
転調後のサビのなんとも言えない切迫感はなんなんでしょうね。
さて。
※(再掲)個人の解釈が大いに含まれるため、飛躍や拡大解釈によって気分を損ねることがあればご容赦ください。
「君が見ていた街を結んでく線に僕はなれるかな」
「君が見ていた街を結んでく線は僕が引かなくちゃ」
君。
ここでいう「君」とは誰なのでしょうか。
考えすぎというか、引っ張られすぎの可能性もあって言いづらいんですが、どうしてもwowakaを指しているように聴こえてしまうんです。
wowakaさんへ pic.twitter.com/2lcVwFb6tp
— 稲葉曇 (@inabakumori) April 8, 2019
これは、wowakaがこの世を去ったことがヒトリエの公式Twitterから知らされた数時間後に、稲葉曇自身が投稿したツイートです。
もう書いてある通りですが、僕はこれを読むだけで泣きそうになります。切なくて、そしてかっこいいなと。
しかもこれが6年前で、2025年現在、その通り音楽を作り続けているのが本当にかっこいい。
wowakaの後を追いかけ、歌愛ユキと共に、音楽を作り続ける。その覚悟と、重圧と、葛藤と。
期待通りを走る僕は君を超えなくちゃ
違う声で進み新しい線を引く
言葉を運び終えるまでこの街に止まる
第4位『私は雨』
心地良いピアノの音、サビの耳に残るメロディ、エ段の押韻。
「エ段の押韻」のところで音が下がるので、少し落ち着いた印象というか、次にシームレスに続けられます。
そのおかげか、よくよく聴くと曲の半分くらいがサビで構成されているんですが、全く気にならないです。
改めて聴くと、1:20くらいから雨音がサウンドに使われているんですね。
歌詞は自分には難解すぎて解釈しきれないんですが、とりあえず自分を雨に喩える発想は天才だなと思います(ニッコリ
そうそう、「雨」と言えば。稲葉曇の曲には、「天気」に関連する歌詞がよく出てきます。「ウェザーステーション」というタイトルのアルバムを出しているくらいです。
↑アルバム「ウェザーステーション」のリンク
この後発表する第3位・第1位の曲もそうですし、『ポストシェルター』にも雨が出てきますし、『ハローマリーナ』という「雪」を使わずに雪を表現したウィンターソングとかもあります。
あとPVがとてもかわいい。
PVの後半で歌詞の表示ごとイラストが傾いていくのとか、ラストで歌愛ユキが窓枠を抱えているところとか、本当は考察のしがいがあるんでしょうけど、これも解釈しきれないですね…笑。考察班お願いしますmm
私は雨 弾かれて判る
だれかのようにはなれない雨
第3位『レイニーブーツ』
つい体を揺らしてしまう、ステップを踏むようなリズム。ノリノリで作業したいときなどにいつも聴いています。
サビ後半の「ジャンプジャンプなんて出来ない」のところは特にリズムと語感が心地良いですね。
あとPVがとてもかわいい。
言わずもがな、この曲のテーマはレイニーブーツ、長靴ですね。
『レイニーブーツ』は歌詞もとても好きでして、めちゃくちゃ”長靴視点”なんですよね。
地球にいじわるされて掴まれているの
とか
お気に入りの靴の身代わりになって
あなたの言葉を弾いてみせるよ
とか。
なんかこう、いじらしくて愛おしくなってしまいます。
そうそう、稲葉曇の曲には、モノ視点で歌詞が書かれたものが多いんです。
それでいて、ただ「雨を弾く」だけじゃなくて、「言葉を弾く」とか「哀しみを弾く」とか「溜まった涙が」といった歌詞もあることから、「ひろくネガティブなことも切り替えて歩いていこうぜ」的なメッセージにも受け取れますね。
レイニーブーツ 代わりに溺れて
行けないところまで哀しみを弾くだけ
第2位『ノンユース』
シンバルイントロから始まるひたすらかっこいいサウンド。
モロにアンノウン・マザーグースを彷彿とさせるPV。
そして切なすぎる歌詞。泣く。何回聴いても泣いてしまう。
『ノンユース』がYoutubeに投稿されたのは、2019年5月11日です。そしてwowakaの命日は同年の4月5日とされており、公式から発表があったのは4月8日。
つまり、稲葉曇がそれを知った約1ヶ月後に出た曲ということになります。
※(再掲)個人の解釈が大いに含まれるため、飛躍や拡大解釈によって気分を損ねることがあればご容赦ください。
綺麗な鞄を置いておやすみをしたい今日は
無理やり荷造りをして笑い飛ばしたかった
「鞄」とは、外出する、活動すること。さらに広げて、日常生活や役割や責任を指していると読み取れます。
「綺麗な鞄を置いておやすみをしたい」とは、そのような役割や責任をいったん置いておいて休んでしまいたい、ということを指します。
なのに「無理やり荷造りをして笑い飛ばしたかった」というのは、「何も気にしていないような素振りで日常生活を送りたかった(でもできるわけないじゃないか)、という強い葛藤があると読み取れます。
バイバイ あたしはきみに貰ったあこがれを
振りかざして使い切ってふらふらだ
もうここにいられる気がしないから
ぶかぶかの服を脱いだんだ
「あたしはきみに貰ったあこがれを」とは、wowakaから受けた憧れや夢や、目指すべき理想像。ポジティブな贈り物であり、稲葉曇自身を突き動かしてきた大きな原動力でもあった。
「バイバイ」は、その憧れに別れを告げる宣言と読み取れます。
「振りかざして」は、その憧れを燃料にして自分を突き動かしてきた。
「使い切ってふらふらだ」は、それだけでは力尽きてしまう、ということ。
「ここ」とは、憧れを原動力としてきた過去の自分がいた場所。そこにいられる気がしない。つまり、勇気を出してそこを離れる決意が見えます。
そして「ぶかぶかの服」。自分にとっては大きすぎる理想像・憧れを背負って「着ていた」けれど、それは本当の自分には合っていなかった。その重荷を捨て、自分を解放しようとする。新たな道へ。
『ノンユース』というタイトル自体も、…まぁ色んな解釈ができますね。
(※投稿後に気付いたんですが、歌愛ユキは小学生のはずなんですが、『ノンユース』だけ、パーカーの下に着ている服が、中学生のセーラー服です。ぶかぶかの服の下に…。これはもしかして、「卒業」とか「成長」とかの暗喩ですかね…???いや…(語彙))
サビの歌詞、ホンマえぐいです。(僕の感情が)
なんて強いのか。『期待通り』でも書いたけど、本当にかっこいいと思います。
自分にとって本当に大事にしているもの。思い出にしろ、感情にしろ、モノにしろ、人にしろ、関係性にしろ。そういうものを断ち切るのって、本当に勇気のいることだと思うんです。それをやっていて、楽曲で表現していて、独立した楽曲としても素晴らしいもので。
そして実際に自らの道を行き、楽曲を世に出し続けている。マジでかっこいいです。
残機を持った状態でさようならしなきゃいけないのだ
第1位『レーダー』
初めて聴いた瞬間、虜になってしまいました。
イントロ1秒で惹き込まれます。そして世界観が全て好き。
他の曲に比べると音数が圧倒的に少なく、静かで、どちらかといえば暗く、そこはかとないディストピア感を感じる曲です。荒廃した世界で佇む少女をイメージしてしまいます。
前半はほぼシンセの音のみで進行し、サビ終わりでドラムのスネアが少し入り、また落ち着いてAメロ(Bメロ??)。後半のサビでググッと盛り上がるものの、シンセのリフと低音そしてドラムのみで構成されます。
インタビューでも「引き算」で作った、と語られています。
そもそも自分は足し算でしか曲をつくってこなかったんですけど、この「レーダー」は引き算で、思いついたフレーズから音をどんどん削ぎ落していきました。
いや、すごいです。こんな曲、稲葉曇の楽曲の中でももちろん異質だし、他のアーティストの中でも相当異質だと思う。
アルバム曲でPVがなく、稲葉曇のYoutubeチャンネルの「動画」欄には表示されないので比較的知られていないのですが、圧倒的に一番好きです。「とにかく聴いて」と言いたい一曲。
誰も住んでいない島の天気予報
あたしは知っておきたい
とりあえずどれか1曲聴いて
最初はTOP10でもしようかと思っていましたが、しなくてよかったです。
案の定オタク特有の早口になり、TOP5だけでも長文になってしまいました。
「今回惜しくもランクインできなかったけど普通に紹介したい曲」についても、気が向いたらどこかで書くかもです。
とりあえず、今回紹介した曲をどれか1曲聴いてみて欲しいです。
それでは。
チャイフ
コメントを残す